獣の肉質は季節によって(食べるもの)によって大きく作用されます。

やはり猪であれば冬、鹿は草のたくさんある夏から晩秋に開けて質の良い個体が多いですが、春水気の多いものをたくさん食べて水分の多い身質のものや、秋脂の乗った個体等にそれぞれにあった手当てをして質の高いものを今日できればと思います。

捕獲方法はくくり罠で生け捕り

僕たちが行なっている猟は「くくり罠」というものです。
実はこの「くくり罠」あまり効率が良くありません。猟犬を使った銃を使う猟はやはり効率的で良い猟犬と腕の良い猟師さんならば数時間で獲物を取ることもできます。

「くくり罠」はワイヤーや特殊なバネを使い、まず「自分たちで罠を作る」ところから始めます。

くくり罠の準備から設置まで

罠ができてもすぐ使えるかというとそうはいきません。
新しいワイヤーやバネには防錆のため油が塗ってあるなど、金属臭がしますのでそのまま設置すると鼻が良いイノシシなどには簡単に気づかれ掘り起こされてしまいます。

準備として大きな鍋に湯を沸かし木の枝や葉っぱなどと一緒に炊いて油抜きした後2~3週間山中に放置したりするなどして金属臭が薄くなってやっと設置できるようになります。

さて山に罠を設置するわけですができるだけ人間の気配を残さないよう気を使います。

山に入る時の服も洗濯には無香料の石鹸を使い香料や匂いの強い柔軟剤などはNG。

歩くときもできるだけ山の状態を変えないように気を使います。

野生動物は警戒心が強く通る道がある程度決まっているおりこれを獣道(けものみち)というのですが、そこは草がなぎ倒されていたり踏み固められたりしていますので見つけるのは容易です。

獣道をみつけたらその道が新しいものなのか足跡や糞などからそれが古いものなのか判断しつつどの道に罠を設置すべきかを考えます。

その時同時に考えておかなければならないのがその場所で獲物を生け捕りすることが可能かということ。急斜面など条件の悪いところで獲物がかかってしまうと捕まえる側にも危険を伴うのはもちろん暴れたとき個体が傷ついたりして肉質にも影響を及ぼします。

罠を設置してからがさらに重要

罠を設置したらその日から毎日欠かさず早朝見回りをします。
野生動物は深夜から早朝にかけて活発に行動しその間にかかることが多く罠にかかった獲物はできるかぎり早く見つけ生け捕りにすることが重要。
これを怠ると罠にかかったまま暴れまわって怪我をしたり悪い場合ストレスなどにより死んでしまったりすることもあります。

死んでしまった個体は品質が低下するため食肉として使用することはできません。

罠にかかっていた場合まずしっかり罠にかかっているか安全確認ワイヤーが爪先にしかかかっていない場合など生け捕り途中に外れてしまうとこちらの命に関わることもあるからです。

特にイノシシは下顎にひじょうに鋭い牙がありこれが物凄く良く切れます。一般的に突進してきたイノシシに跳ね飛ばされて怪我をするというイメージをされると思いますが多くの場合体当たりと同時にこの牙で太ももの動脈を切られ出血多量で命を落とされています。

上顎にも同様の牙がありますがこちらは刃物というより砥石の役目罠にかかっている間にもギリギリと音を立てて牙を研いでいる様子が伺えもしもワイヤーが切れたらと考えると毎回身震いするほど恐ろしいです。

また罠にかかっていた獲物が若いイノシシだった場合体重が100キロ近い母親が近くにいる場合がありやはり子を助けようとそれも非常に危険です。

秋頃は冬眠前の熊がいることもあり注意が必要。

安全第一とはいますが虎穴に入らずんば虎児を得ず。大自然から最高の食肉という恵みを頂戴するにはある程度のリスクは伴うということです。

僕たちはリスクがあるというより対等であると考え山に入る時は慎重に行動するようまた感謝の気持ちを忘れぬよう心がけています。

生け捕りから解体作業まで

野生動物は通常道路から離れた山の中におり銃や罠で捕獲するのですが多くの場合その場で屠殺、放血されますナイフなどで心臓の少し上の動脈あたりを狙いますが暴れますのでなかなか思うようにはいかないものです。

その後60キロ以上ある(獲物によっては100キロ近い)屠体を担いで山道を降りトラックに乗せて運ぶのですがこれには相当の時間がかかりそうしている間にも体温で肉の劣化は進みます。

処理施設についたら屠体を洗浄し内臓を摘出しますがここまでの作業で早くてもおおよそ2時間から3時間大きな個体の場合さらに時間がかかることになります。

理想的な血抜き温度管理を目指してわれわれが取り組んだのは罠による捕獲のあと個体を生け捕りにして施設まで持ち帰るというものです。

そうすることで狙ったところを一発で刺せるので方血も大変スムーズです。

屠殺前に個体を洗浄することも可能で屠殺、方血、内臓摘出まで20分程度というごく短時間で処理が終わり、すぐさま冷却できるため肉質の劣化を最小限に抑えることができます。

肉にとっては大変素晴らしい方法ですが捕獲する立場としては大変危険な方法です。

オスジカのツノはもちろんイノシシの牙はナイフのように切れますので毎年のように大怪我のニュースは耳にしますし、場合によっては命を落とす方もいらっしゃいます。

オスジカ、イノシシは罠にかかった時点で喜びと同時になんともいえない恐怖も感じますが、命をいただく以上それが対当だからこそ食べ物に対する感謝も生まれるというものです。

しかしこの仕事を続けるためには安全第一。今の課題はいかに安全に生け捕りにするかでこちらも包丁研究と同じく日々考えをめぐらせています。