解体と包丁の切れ味

仕事をする上で使う道具というものはとても重要。
選び方、メンテナンスをおこたると極端に作業性が悪くなります。もちろん品質にも影響がでます。
食肉の解体で一番使う道具といえば包丁。
言い切ってしまいますがその包丁の切れ味が良くなければ良い肉をつくるのは絶対不可能です。

もともと料理をするところからスタートした僕たちは食材と切れ味の関係について深く掘り下げて研究してきました。
そのなかで少し気がついたことというか不思議に思ったことがあります。

ものの速さを表すとき速さの度合いは速度。

光り方の度合いを表すとき輝度。

温度、高度、粘度など「度」という言葉が主に使われますが、刃物においての切れる度合いを表すとき、切れ度とは言わず「切れ味」という表現が使われます。

言葉というものは長い年月を経て人がそのように感じ、それをわかりやすく伝えようとした結果そういう表現が生まれるのだと思います。

包丁を研ぎ、最初は切るだけだったのですが勿体無いので切ったものを食べるようになりました。
繰り返すうちに気がついたのですが同じ玉ねぎ、同じ包丁でも刃先の仕上げ方ひとつで切れ具合はもちろん甘くなったり苦くなったり全く味が違うのです。

その時「そうか!」という感じで切れ味という表現がどのようにしてできあがってきたのか理解できました。

日本刀にはじまり日本建築に使われる大工道具。

和食に使われる和包丁等刃物大国と言える日本人が古くから刃物の切れ具合がその「味」や「味わいに」におおきく影響するということに気がついていたのではないかと思います。

それ以来、僕たちはこの切れ味というものを大変重要なものとし、十数種類の砥石を使い分け、先の状態を顕微鏡で確認しながら仕上げ、実際に切って食す、ということを繰り返しそれぞれに適した研ぎというものを研究し続けています。

ジビエの加工において刃物の切れ味は解体から精肉、熟成に至るまで全てに影響を及ぼします。

荒い刃や切れ味の落ちた刃物で切った食肉の断面は荒い断面となって表面積が増え酸化が進みやすくなります。それをそのまま熟成するとやはり臭みが出やすく結局食味を落としてトリミングが必要になり、利用できる部位が減るなど様々なデメリットがあります。

逆の場合、やはり表面が美しく酸化が最小限に抑えられるため長期間熟成をかけても非常に臭みの少ない仕上がりになります。

大工道具の場合切れ味の良い鉋で仕上げた柱などの表面は非常に滑らかで塗装をしなくても汚れがつきにくく長期にわたり美しさが持続します。

もっと極端な例ですとまな板の表面を仕上げる際、紙やすりで仕上げスポイトで水を垂らすと染み込んでしまいますが、切れ味のよい鉋で仕上げると水は表面で玉のようになり長時間に渡って浸み込みません。

やはり匂いや汚れがつきにくく最終的にその上で加工される食材の良し悪しにまで関わることになります。

大自然から大切な命をいただく以上、素晴らしい肉に仕上げるためには全力を尽くし、お客様にお届けするため今後も日々研究を重ねていきたいと思います。